日本軽金属ホールディングス株式会社

トップメッセージ

チーム日軽金として異次元の素材メーカーを
追求してまいります

真摯に一つずつ、チームで取り組んでまいります

1年間を振り返って

最初に当社グループの昨年の業績を総括するとともに、今後の見通しについて申し上げます。当社グループの連結業績は、2018年度に経常利益が300億円を超えるなど、ホールディングス体制に移行した2012年以降、堅調に推移してまいりました。しかしながら、昨年度は、アルミニウム地金市況や原燃料価格を反映した販売価格の改定により、売上高は5,170億円と前期比6.2%の増収になったものの、半導体不足に端を発した自動車関連の需要低迷やトラックのシャシー供給の遅れによる減販、アルミニウム等の原材料、諸資材、燃料等の価格高騰によるコストアップなどにより経常利益は89億円と前期比61.4%の減益になり、目標値の達成には至りませんでした。

足元では、上昇した原燃料価格を販売価格へ適正に転嫁するとともに、引き続き海外展開の加速、新ビジネス・新商品の創出強化を図るなど、業績回復に取り組んでおります。

人口一人あたりのアルミ需要

※ 日本アルミニウム協会資料より

一方、日本国内のアルミニウム需要量については、2000年以降、ほぼ横ばいに推移しており、世界のアルミニウム需要量における日本の割合は約5%、年間約400万トンとなっています。唯一、量的な拡大をしてきた中国においても、近年は世界の平均的なアルミニウム消費量とされる一人当たり年間30キログラムに近づきつつあります。中国においても日本や欧米諸国と同様に、この水準を大きく上回るようなアルミニウム消費量の拡大を見込むことは難しいと考えています。大量生産・大量消費を前提としたアルミニウムの量的な拡大が限界を迎えようとしている今、私たちが専心すべきは新たな用途開発、お客様が考える「お客様の価値」の創出に他なりません。当社グループの強みを生かし、お客様が必要とされる商品・サービスを提供することが重要だと考えています。

連結業績の推移

全世界でのアルミニウム需要の推移

※ 日本アルミニウム協会資料より

品質不適切行為の調査結果と再発防止について

当社グループの経営方針や経営施策をご説明するに先立ち、皆様にご迷惑とご心配をおかけしております一連のJIS認証取消・JISマーク等使用停止請求問題(品質問題)について、ここに改めて深くお詫びするとともに進捗状況をご報告いたします。

まず、外部専門家等によって構成された特別調査委員会からの調査報告についてご説明いたします。調査範囲がJIS認証事業所以外に拡大されたことにより調査期間が1年9カ月におよんだものの、この3月に調査が完了し、「調査報告書」を受領いたしました。また、当社では特別調査委員会の調査と並行して、本件の背景にある構造的な要因や再発防止に向けた取組みについて自ら検討を重ね、特別調査委員会の調査結果と提言を真摯に受け止めつつ、ステークホルダーの皆様から信頼していただける企業グループに生まれ変わるべく、当社の再発防止策を策定いたしました。

再発防止の取組みとして、グループ・ガバナンス体制の再構築をはじめとした「経営改革の推進」、企業風土の改革などの「内部統制機能の強化」を進めてまいります。

職場行脚

中でも企業風土は、長い歳月を経て当社グループに定着しているものだけに、一朝一夕で改革が成し得るものではないと認識しています。経営としての考えを最前線で働く従業員にしっかりと伝えるとともに、経営と従業員とが直接対話する目的で、今年4月から「拠点長会議」と「職場行脚」に取り組んでおります。拠点長会議とは、当社グループの各職場を概ね20人単位で括り、その代表者を拠点長に定め、毎月、約400人の拠点長が出席する会議体です。会議では、品質問題の原因と再発防止をはじめとするグループ横断的な経営課題について討議するなどしています。拠点長400人が会議出席後に自職場の20人に説明することで、当社グループの国内の全従業員約8,000人に対し、経営の考えや取組み内容の共有を図ってまいります。また、職場行脚では、経営のトップである私自身が工場や支店・営業所等に行き、1回あたり概ね20人の従業員とで対話会を実施しています。私からは経営の思いを伝え、従業員からは働くにあたっての悩みや職場における課題等を現場の声として伝えてもらいます。拠点長会議と同様に、1回20人の職場行脚を計400回実施することで、全従業員との直接対話を重ねてまいります。そうした中、ひとつの職場行脚において、工場で働く従業員から「30分ほどすべての設備を停止し、職場毎で品質について話す日を設けたい」という声が挙がりました。私も「それはいいね。ぜひ実施しよう。」と同意をした経緯から、当該工場は独自で「品質の日」を設けることになりました。品質問題を従業員一人ひとりが自分事として受け止め、"心に灯がともる" 瞬間を目の当たりにし、これこそが、私の責務だとし実感しております。

また、2023年4月には、グループ16社・36名の中堅若手従業員が中心となり「日軽金グループ行動理念」を策定しました。その代表者が経営会議や取締役会等で直接プレゼンテーションを行ってくれた上で決定・承認したものであり、まさに当社グループの思い、プロジェクトメンバー36名の思いが籠ったものです。今後、行動理念と整合しないような出来事が起こった際は、「それは違うのではないか」と彼らが声を大にして指摘してくれることでしょう。私は、こうした活動が、まさに啐啄同時と捉えており、従業員一人ひとりがこれまで以上に意見を言い合える企業グループに変わり始めている手応えを感じています。企業風土の改革に終わりはありません。これからも従業員一人ひとりの心に灯をともし続けてまいります。

啐啄同時そったくどうじ:師(家)と弟子のはたらきが合致すること。両者の心が投合すること。

一丸となって、「2023中期経営計画」の達成へ

新生「チーム日軽金」に込めた思い

経営環境の変化や品質問題の再発防止への取組みなどを踏まえ、当社グループが新生「チーム日軽金」として新しく再出発するため、今年度は「22中計」を1年で見直し、「23中計」の策定に踏み切りました。「23中計」は、新生チーム日軽金として再出発した私たちの決意表明でもあります。新生チーム日軽金の「新生」には、私たちが生まれ変わり、社会的信頼と収益の回復を遂げるという意味が含まれており、新生チーム日軽金への取組みは攻守両面で「23中計」の経営方針の柱の一つとなっています。

ただし、新生チーム日軽金においても、グループ内で人や組織が有機的に連携することや、個々の知恵の集積によるグループ総合力を発揮すること、そして、お客様にとっての「価値」を創出し続けるということに変わりはありません。私たちは、ブレることなく目標達成に向け取り組んでまいります。

グループ・ガバナンス体制の再構築

新生チーム日軽金への取組みの一つが、経営改革の推進・内部統制機能の強化です。経営トップとして、先ほど申し上げた「拠点長会議」「職場行脚」の継続による企業風土の改革に取り組んでまいります。一方、当社グループの構成を改めて見直すと、グループ合計78社のうち従業員数300人以下の会社は69社あり、そこにグループの全従業員の42%が所属しています。つまり、当社グループには中・小規模の子会社が多く含まれており、これら中・小規模会社をもう少し大きなグループに括り、マネジメントしていくことでグループ・ガバナンス体制を再構築していくことを考えております。

日軽金ALMOの発足

今のお話が企業風土の改革やガバナンス体制の再構築といった守りの面とすれば、攻めの施策の一例が、日軽金ALMO㈱の設立です。これまでグループ各社が工法別に展開してきた自動車部品ビジネスを一つの会社組織にすることで、分散している経営資源の集約と柔軟な配分を促進してまいります。カーボンニュートラルへの対応や電動化が進む自動車市場は素材、生産方法も含めて様々な可能性があり、当社グループとして大きなビジネスチャンスが期待できます。当社グループの強みは、素材の特性を熟知したうえで、鋳物、加工、接合といった工法や加工技術から開発、設計、さらにメンテナンス、サービスにいたるトータルな対応力を有していることです。これらの強みを集約することにより、お客様が求める商品・サービス、高付加価値を提供できると考えております。

サステナブル経営の実現に向けて

当社グループは、経営理念「アルミニウムを核としたビジネスの創出を続けることによって、人々の暮らしの向上と地球環境の保護に貢献していく」の下、サステナブル経営に邁進しております。その中でも、当社グループの持続的な成長および企業価値の向上のための重要課題(マテリアリティ)として、以下の5テーマを掲げています。

  • 地球環境保護
  • 持続可能な価値提供
  • 従業員の幸せ
  • 責任ある調達・生産・供給
  • 企業倫理・企業統治

カーボンニュートラルの推進

カーボンニュートラルの推進は、「地球環境保護」「持続可能な価値提供」における、新生チーム日軽金の重要な課題の一つです。私たちは、過去の歴史的な成り立ちから、川上から川下まで多種多様な事業部門を有していますが、個々の事業部門による計画や施策だけでは、グループとして最適な形でのカーボンニュートラルを推進することが難しかったのも事実です。そこで、グループの統合的な脱炭素戦略の立案および推進の主体として、カーボンニュートラル推進室を設置しました。2050年度での温室効果ガス排出量実質ゼロの達成に向け、脱炭素戦略におけるリスクと機会を統合してマネジメントを行うための新たなチャレンジです。

一般的に、アルミニウム新地金は、原料からアルミニウムを金属として取り出す際に大量の電力を消費するため、製造時のCO2負荷が大きいとされることもありますが、自動車等の軽量化によって使用時はエネルギー効率の改善が期待でき、ライフサイクル全体で捉えれば CO2排出の低減に寄与する素材です。また、アルミニウムはリサイクル性に優れた素材であると同時に再生地金のCO2負荷は新地金の10分の1となっており、リサイクルの推進によって今後の脱炭素化に大きく寄与できるものと考えます。

当社グループにおいては、アルミニウム新地金の主要用途である展伸材向け素材の水平リサイクルが、脱炭素・低炭素化の重要な手段となります。一方で、市中のスクラップをそのまま展伸材向けに利用するには、スクラップから新地金・展伸材相当部分のみを選別・分離するような技術の確立が欠かせません。当社グループで長年リサイクル事業を行っている日軽エムシーアルミ㈱の知見も活用しながら、技術の確立、実用化を目指します。そのため、展伸材向け素材の調達・生産・販売の機能を新たに「メタル事業部」として統合し、低炭素材料の調達強化、自社生産品でのスクラップ利用拡大、お客様とのクローズドループサプライチェーン構築といった施策を実行するための体制を整備しました。

さらには、アルミニウム素材技術の強みを活かしたアップグレード技術の向上へ取り組むことにより、当社グループのビジネス拡大のみならず、地球環境保護と持続可能な価値提供に貢献してまいります。

「従業員の幸せ」を推進力に、持続可能な社会に貢献する

当社グループの重要課題の中でも特にサステナブル経営のエンジンとなるものは「従業員の幸せ」だと考えています。従業員一人ひとりが「喜び」、「やりがい」を感じ、当社グループの一員として誇りをもって、日々の仕事に臨むことが出来てはじめて、各課題の取組みが進み、KPI等の目標が達成されると認識しています。そのための取組みの一つとして、当社は車いすラグビー日本代表のオフィシャルパートナーとなり各種活動を展開しています。これには、当社グループの若手従業員5名が主体となって、日本代表チームの試合観戦イベントや試合運営のボランティアに参加するなどし、活動の輪を広げてくれています。また、日本軽金属㈱苫小牧製造所では働く環境を整備する一環で体育館「日軽アリーナ」を改修し、その際に通路やロッカールームを含め建屋全面をバリアフリーに設計しました。社外への貸し出し利用にも積極的に取り組んでおり、現在は、車いすラグビー、車いすバスケ等がプレーできるパラスポーツの活動拠点として広く認知いただけるようになりました。こうした社会貢献活動に取り組むことが、ともに働く従業員にとって、私たちは企業市民として社会に役立っているという喜び・誇りを醸成し、「従業員の幸せ」の実現につながり、ひいては当社グループの社会的な信頼回復、収益力の改善、そして持続的な成長につながっていくと私は信じています。

結びに

当社グループが持続的に成長するためには、社会的信頼を取り戻すことが先決であり、収益力の向上はその信頼の上に成り立つものだと考えております。そのためには、経営 と従業員の一人ひとりが新生「チーム日軽金」の一員であることに誇りを持ち、当社グループで働くことのやりがいと幸せを感じられることが大切です。そのための私自身の大きな役割として、「拠点長会議」と「職場行脚」を通じ、「人の心に灯をともす」ことを続けてまいります。

皆様からの信頼を回復し、ご期待にお応えできるよう、これからも私たちは「異次元の素材メーカー」を目指して走り続けてまいります。